レポート

グローバルリーダーの育成を目指すSGH校「秋田南高等学校」のClassiNOTE活用事例

秋田県立秋田南高等学校は、基本理念に「郷土や国家を支える高い志と国際的な視野を備えたグローバルリーダーの育成」を掲げる、同県屈指の公立進学校です。2015年度には文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定、2016年度には中等部が併設され中高一貫校となるなど、さまざまな取り組みを行っています。2017年度には、高等学校の全学年にClassi(クラッシー)を導入し、学びの振り返り、コミュニケーションの活性化、先生方の業務の効率化など、Classi導入による成果を着実に収めてきました。

 

 

今後、さらにICTを活用した効果的な学びを実現するため、公開授業のタイミングに合わせ、試験的に「ClassiNOTE」とタブレット(ソフトバンク提供)を活用した授業に取り組みました。

 

数学Iの空間図形問題にトライ

 


探究部教育情報班主任・進路指導部副主任
中村 東 先生

 

今回の対象となったのは、高校1年生の「数学I」の授業。担当は中村 東 先生です。

 

本授業では、「正四面体の内接球の半径を求めよ」という空間図形問題に取り組みました。この問題には「断面図を利用した解法」と「体積を利用した解法」の2つがありますが、それぞれの解法のメリット・デメリットを理解する、というのが本授業の目標です。

 

クラスは3~4名の男女混合班8つに分けられ、さらに使用する解法によって「断面図グループ」「体積グループ」の2つに分けられました。各班のテーブルの上には、参考書、ホワイトボードの他、「ClassiNOTE」がインストールされたタブレット(iPad)が置かれています。

 

授業の流れは以下の通りです。

 

まず各班は15分間、割り当てられた解法で問題を解きます。次に「断面図グループ」から「体積グループ」へ、続いて「体積グループ」から「断面図グループ」へと、それぞれの解法を教え合います。教え合いの後、2つの解法のメリット・デメリットをクラス全員で話し合い、最後に中村先生が総括を行います。

 

 

本授業では、各生徒が事前に同様の問題を自主的に学んでおく、反転授業の形式が取られています。自主学習で使用された教材は、中村先生オリジナルの動画教材。この動画はiPadの「画面収録機能」(iPad画面上で行った操作を録画できる機能。マイクをオンにすることで、操作中の発声も含んだ動画を作成できる)を使って制作され、Classiの「コンテンツボックス」を経由して生徒に共有されました。

 

空間図形を自在に操れるiPadアプリを使用し、生徒の理解を促進

 

授業では、iPadのアプリケーションが効果的に活用されました。そのうちの1つが、空間図形などの作図が簡単に行える、オープンソースの動的数学ツール「GeoGebra」です。

 

空間図形問題の難しさは、問題文に登場する図形を、脳内で3次元の立体的なイメージに変換しなければいけない点にあります。例えば、「体積グループ」の解法は、「正四面体を四分割してできた三角錐の高さと内接球の半径は等しい。よって、三角錐の高さを求めれば内接球の半径がわかる」というアプローチを取ります。「GeoGebra」を使えばこうした内容を3次元イメージとして視覚化できるので、理解の手助けになると中村先生は考えています。

 

以下は、この日の授業で使用された3次元モデルです。「GeoGebra」はオープンソースの無料ツールのため、このような3次元モデルが有志によって数多く一般公開されています。

 

 

「GeoGebra」アプリのタイムラインをスワイプすると、空間図形はゆっくりと開閉をくり返します。次に、空間図形自体をスワイプすると、図形は360度あらゆる方向に回転します。空間図形をまるで自分の手で動かしているように扱える点は、iPadならではの良さと言えるでしょう。生徒たちは思い思いに3次元モデルを操作し、問題に取り組んでいました。

 

 

中村先生は、授業でこういったアプリを利用するメリットについて、このように語ってくれました。

 

中村先生:

ある時、卒業生と話をしていたら、「先生、あの正四面体が“パカッ”って広がるやつ、面白かったよ」って、授業のことをよく覚えていたんです。イメージの難しい空間図形を3次元で見せてあげると、圧倒的にインパクトがあって、強く印象に残るようですね。

定期試験や受験では、もちろんこういったアプリを使うことはできません。ただ、これを一度見ているのと見ていないのとでは、いざ問題にあたった時、空間図形のイメージの仕方がかなり変わってくるのではないかと考えています

問題を解き終えると、「断面図グループ」と「体積グループ」はそれぞれの解法をお互いに教え合います。

 

 

「ClassiNOTE」を使うと、「まるでクイズ番組のように」授業を運営できる

 

生徒同士の解法の教え合いが終わると、次に2つの解法のメリット・デメリットを話し合うパートに移ります。ここで使用されたアプリケーションは、Classiの連携サービスである「ClassiNOTE」です。

「ClassiNOTE」は、タブレットやパソコンなどのデバイスを問わずに利用できる、アクティブ・ラーニングツールです。先生が問題の一斉配信を行うと、それに対する生徒の回答をリアルタイムにアプリ上で一覧することができます。

中村先生は「ClassiNOTE」を使い、「断面図を利用した解法」「体積を利用した解法」それぞれのメリット・デメリットを答えるよう生徒たちに出題しました。

 

 

 

出題を受け、各班はそれぞれの解答を「ClassiNOTE」に記入します。iPadの画面キーボードを使って入力する班もあれば、指先で手書き入力を行う班もありました。

 

 

解答が出揃うと、中村先生は解答の一覧画面をスライドに投影し、気になるものをピックアップしながら各班の発言を促していきます。

 

 

「ClassiNOTE」を活用した授業のメリットについて、中村先生はこのように語ってくださいました。

中村先生:

「ClassiNOTE」ではリアルタイムに解答が集まるので、どの班がうまくいっているか、つまずいているかを把握できます。また、解答の一覧を見ながら、“最初にこの間違いを取り上げて、最後にこの正答を取り上げよう”と授業の流れを意図的に組み立てられるので、授業時間内に結論をまとめることにも役立っています。

「ClassiNOTE」を活用すると、「まるでクイズ番組の司会者のように」授業が進められるとも評価する中村先生。ICTを活用することで、従来の授業では難しかった授業運営を実現し、生徒の理解を深めることに成功しています。

なお、この日の授業で使用した2つの解法はそれぞれ「この問題を解くには最適だが、他の問題には応用しにくい(特殊な解決策)」「正解に至るまで多くの計算を行う必要はあるが、他の問題にも応用できる(一般的な解決策)」というメリット・デメリットを持っていました。

 

 

問題解決のために、特殊な解決策を選ぶか、一般的な解決策を選ぶか?──実社会において、このような選択を迫られるシーンは多々あります。中村先生は本授業を通して、数学的な理解を目指すだけでなく、実社会には「特殊な解決策」と「一般的な解決策」が存在すること、また、それらを状況に応じて使い分けられる柔軟性を持つことを生徒に訴えようとしていました。

「ClassiNOTE」をはじめとするICTツールは、中村先生が普段、生徒に身につけてもらいと考えているこうした能力を、身につけることにも大きく貢献しています。

 

ICTツールの活用で「情報提示のスピード」が劇的に向上する

中村先生は普段から、以下のような機器・アプリケーションを活用した授業を行っています。

 

 

中村先生の使用機器・アプリケーション一覧
  • 使用機器
    ・iPad Pro + Apple Pencil
    ・Apple TV(iPadとプロジェクターの無線接続に使用)
    ・Windows PC(HDMIケーブルでプロジェクターと有線接続)
  • ソフト・アプリケーション
    iPad
    • GeoGebra(グラフ作画アプリ)
    • Desmos(グラフ作画アプリ)
    • PDF Pro(PDF編集アプリ PDFにした教材にApple Pencilで書き込むために使用)
    • GoodNotes(ノートアプリ 板書の代わりに使用)
    Windows PC
    • PDF Viewer(PDF編集ソフト)
    • GRAPES(グラフ作画ソフト)
    • FunctionView(グラフ作画ソフト)

授業は基本的に、教室前方にあるスライドにプロジェクター映像を投影して進められました。スライドに映し出されるのは先生の手元にあるiPadの画面。中村先生はPDF化した教材にApple Pencilで書き込みを入れ、それを生徒に見せながら問題の解説を行います。

 

 

続いて今度は投影内容をWindows PCに切り替え、グラフ作画ソフトで作成された3次元モデルや、Webブラウザで参考Webサイトを次々と生徒に見せていきます。基本的に授業では、黒板への板書は一切行われません。

 

 

中村先生がこのようにICTツールを駆使する理由は、「情報を提示するまでのスピード」にあると言います。黒板に板書して、解説して、消して、といった従来の授業よりも、はるかに多くの情報を提示できる点がICTのメリット。授業の進度を早められるだけでなく、生徒にくり返し問題を解かせる時間を確保できる、と中村先生は言います。

 

中村先生:
私はよく、“数学の授業は体育と一緒だ”と、生徒に言っています。例えば体育の先生がお手本を見せても、それを見ただけでは同じことができるようにはなりません。数学も同じで、理解した後、くり返し練習をしなければ解法は身につかないのです。ICTを利用することで、理解までの時間を短縮し、問題を解く時間を少しでも多く作ることを目指しています。

 

中村先生の授業でもう1つ印象的だったのは、PC内にストックされたさまざまなデータを、授業の流れに応じてアドリブで生徒に提示していたことです。例えば、「標準偏差グラフはなぜ、あのような山形のカーブを描くのか?」という話題の中では、数学者の秋山仁氏が制作した実験動画を生徒たちに見せていました。

 

 

中村先生:

私の授業では、教科書に載っていないこともかなり教えています。数学だけではなく、世の中の物事が“なぜこうなっているんだろう?”ということを伝えたいのです。そのために授業で使えそうなネタをPCに常にストックして、いつでも取り出せるようにしています。

教科の指導だけでなく、社会の課題に対する関心や教養の育成も目指す。ICTの積極的な活用は、秋田南高等学校の教育理念の実現にも大きく貢献している印象を持ちました。

 

ICTを活用し、さらに生徒一人ひとりに合わせた教育を実現したい

 

最後に、ICTを活用した授業に関して、今後の展望を中村先生に伺いました。

現在、当校では一人に1台タブレットを持たせるまでには至ってはいません。今回の公開授業では、テスト的にiPadを1班に1台持たせましたが、将来的には一人に1台のタブレットを持つ時代がすぐやってくると思っています。こういった環境が実現すれば、例えば授業を20分で理解してしまった生徒に対して、残りの30分間、その生徒に合った学習コンテンツを提示することができるかもしれません。究極的には、ICTを活用して生徒一人ひとりに合わせた授業を提供できればと考えています。

今回の公開授業にて、中村先生が「ClassiNOTE」とタブレットを活用した授業に取り組んだ背景には、こうした理想の実現に向けて、ICTツールの可能性を多くの先生方に感じていただく目的もあったのだそうです。誰にとっても使いやすく、わかりやすい「ClassiNOTE」は、その目的にかなう最適なツールであると中村先生は評価しています。

 

ICTツールの積極活用で、新しい授業のあり方を切り拓く

 

中村先生が秋田南高等学校に着任された2014年当時、校内には情報機器やICTを扱う文化がほとんどなく、備品のプロジェクターはわずか3台しかありませんでした。その後、中村先生をはじめとする有志の先生方が、PCを活用した授業を行い、その有効性を周囲の先生も認識していった結果、現在プロジェクターは18台にまで増えました。今やプロジェクターを使った授業風景は、秋田南高等学校においてごく当たり前のものになっているそうです。

タブレットのような情報端末についても、いつか同じような状況を作り出せると考えている中村先生。今後もClassiをはじめとするICTツールを積極的に活用し、新しい教育のあり方を切り拓くチャレンジを続けていきたいと、力強く意気込みを語ってくださいました。